何の前触れもなく、それは訪れた。いや、もしかしたら前兆はあったのかもしれない。兎に角突然のことだった。
どうやら俺は日本号が好きらしい。
好意を持っていることを自覚してから、自分は刀剣男士として顕現するずっと前から日本号を特別視していたことも気付く。それについては黒田家宝の一口という仲間意識からくるものだと思っていた。それなら日光はどうなのかと考え、日本号とは少し違うと思った。
考えれば考える程、俺はとんでもなく日本号が好きであると自覚してくる。だが、日本号への好意に気付いたところで関係を深めたいとは思わなかった。
今の俺と日本号は同じ主の下で過ごしており、ちょっとしたつまみを持って伺えば快く呑み交わすことができる間柄だ。我ながら結構良いところに収まっているだろう。
飲みたくなったと日本号の部屋へ遊びに行って、酔った勢いでじゃれてみても窘められるくらいだ。仕返しに擽られたことはあったが、そんなふざけたやり取りが許されている辺り、悪い関係ではないだろう。少なくとも俺はじゃれ合うなんて相当仲の良い奴でなければ無理だ。
擽られた時はやめろと騒いだものだったが、今思えばとんでもなく密着していたものだった。まだ好意を自覚する前とはいえ、とんでもないことをしていたものだ。
考え続けても現状維持が一番幸せな気がしてならない。それ以上のことについて興味がないわけではないが、一緒にいられるだけの幸せも貴重なものだ。
そう考え、俺はこれまで通りに過ごすことにした。だが、特別な好意を抱いていることを自覚したのは大きかったらしい。
「長谷部、日本号んこと好いとうよね」
遠征先で博多と二口になった途端、とんでもないことを言われた。
「は? ま、まあ、本丸の一員として」
「そうじゃなか!愛とか恋とかそげなやつばい」
きっ、と鋭く見上げる博多にたじろぎそうになる。
「……何故、そう思った」
「見よったらわかるばい。あーんな風に日本号ば見つめていたら気付かん方がおかしか」
「あんなって……」
どんな風だ。俺としては今までと変わらないつもりだったが、博多からすると何かが違ったのか。
「長谷部が日本号のこと好いてても何も言わんばい。隠さなくて良かよ」
「どうしてわかった」
博多が批難の目的で話題を振ったわけではないようだ。それならば素直に認めよう。それにしても見つめている?今までと変えたつもりはないんだが……。
「長政様の時ん思うたけど、こげな隠し事は下手すぎるばい」
長政様の名を出され、少なからず心当たりのある俺は閉口する。好意を隠すことについて上手い下手でいえば下手な方だが、そんなにわかりやすいのか。
「……すると、他にも気付いている奴がいたりするのか?」
「まあ、少なくとも厚兄は気付いとるよ」
なんだって。それなら厚とは暫く二口にはなりたくないな。厚のことだから今の博多のようにずけずけと言ってくることはないだろうが、俺の心地が宜しくない。
「その、確かに俺は日本号へ好意を持っているが、奴とどうこうしたいわけではないぞ」
「そうなん?」
「そうだ。それよりも博多、お前は俺の気持ちに気付いて何とも思わなかったのか?」
「うーん……ちょっと露骨すぎやと思うたかな」
つまり、露骨過ぎる程に俺は見つめていたということか。
「別に、長谷部ん気持ちば知ったからって、どうしてほしかっちゅうことはなか。そげんことは長谷部が決めることばい」
「そ、そうか」
話の流れから身構えてしまったが、こちらの気持ちに気付いても文句があるわけではないのか。
それなら良かったと安堵しながら、己の振る舞いには気をつけようと決心するのだった。
「長谷部ってばほんと日本号のこと好きだよねえ」
「な、」
非常に似たようなことを数日前に博多から言われたのだが、まさか加州にまでそんなことを言われてしまうとは。しかも遠征中にたまたま二口になったところまで博多と同じとは。一瞬夢かと思ったが、夢特有の不鮮明さは感じられないのでこれは現実なのだろう。
「なんだいきなりそんな話を……」
「日本号に向ける視線が熱烈っていうの?これが別の意味があったらちょっとヤバそうだなと思うくらいの熱視線を送っていたからさ」
言っていることは少し違うが博多と似た内容だ。意識して変わりない振る舞いをしていた筈だが、視線だけはどうにも日本号を追ってしまっていたのだろうか。
「あいつはでかい図体もあって目立つからな。見てしまうのは仕方ない」
「そりゃあ日本号はでかいけどさ。日本号並にでかい男士はいるし、目立つからってあんな風に見ちゃうわけ?」
「博多だけではなく加州、お前までそんなことを言うのか」
「博多ねえ。本丸でも古株の俺がわかるなら、博多みたいに本丸以前からの昔馴染みならもっとわかっちゃったんじゃない」
博多からは隠し事が下手だとも言われたが、そんなに俺はわかりやすいのか。いや、加州は本丸での最初の刀剣男士というのもあって本丸では一番長い付き合いだ。だからわかったのではないか。そうであってほしい。
「好意を持っているのは否定しないが、だからといって何をするでもないぞ」
「そうなの?もしかして付き合っているのかと思って話聞きたかったのに」
「付き合うなんてする筈ないだろう」
「えええ?好きなんでしょ?」
「今のままで満足しているから現状維持だ」
「現状維持って、長谷部がそう思っているなら良いけど」
「兎も角、熱視線については善処しよう」
「いやいや、俺とか気付いている連中はその内慣れるだろうし良いよ」
こういうのは慣れるものなのか。まあ、加州がそう言うならそうなのかもしれない。
しかし博多だけでなく加州にまで気付かれるとは。博多も加州も視線について指摘していたので、その辺りを重点的に気をつければ良いのはわかった。あまり日本号を見られないのは少々惜しいが、見つめないように気をつけていこう。
「貴方、どれだけあの日本号が好きなんですか」
二度あることは三度ある。なんて言葉があるが、その三度目がよりによって宗三だなんて。同じ織田の刀剣でも、まだ不動の方がましかもしれない。そんなことを思いながら、汗で濡れた額を拭った。
今は畑当番で草むしりの最中で周囲には誰もいない。博多や加州もそうだったが、二口の時に限って話すとは奴等なりの配慮なのだろうか。
「だったらどうした」
三度目ともなると否定も面倒になってくる。それに宗三相手に下手な誤魔化しは悪手だ。
「どうしたもこうしたもないですよ。城内はおろか出陣先でも隙あらば日本号へ意識した視線を送って、こちらは惚気で中てられそうなんですよ」
惚気もどうかと思うが中てられるとは毒物か何かか。
「今はまだ自制している最中なんだ。気になるだろうが、もう暫し目を瞑ってくれ」
「自覚はあったんですね」
「博多と加州に指摘された」
「まったく……既に指摘されてあれですか。小夜が気まずい思いをすることを考えると控えてほしいんですけど」
やれやれと言わんばかりに宗三は少々乱暴に草を千切ると、小さく溜め息を吐いた。小夜に視線について指摘されたことはないが、宗三まで知っているのであれば、口にはしないものの知っている可能性は高い。小夜の名の通り物静かで必要以上に語らない性分もあって、宗三が気にするところも納得はできる。
「小夜に迷惑はかけるつもりはない。視線については意識して控えよう」
「そうしてもらえると助かります」
「それと俺は日本号とどうこうなろうというつもりはないので、もしも小夜が気にしているようだったらそう言ってくれ」
「あれで?何もしないつもりですか?」
まるで奇襲に遭った時のように宗三が驚愕の表情を見せる。なんだ、そんなに心外か。俺がそんな愚かな嘘をつくことはないとこいつもようく知っているだろうに。
好意は俺の一方的なものであるし現状が幸せなのだ。何を望むんだ。
「へし切、日本号に愛の告白はしたのか」
本丸内の大浴場、洗い場で偶然に隣り合わせになった日光は開口一番そう言った。
好意を抱いていることを幾度となく言われたが、そこを通り越して告白とはどういうことだ。日本号に次いで日光には気付かれたくなかったのだが、もしかして博多辺りから何か聞いたのだろうか。
「……どこで何を聞いた」
「誰に聞いたでもない。見れば好意を抱いているとわかるものだ」
どこか自信ありげな声色に、絶望に似た心地を覚える。付き合いは長いが、色恋に疎そうなこいつにまで気付かれてしまうとは。そこまで俺はわかりやすいのか……?
「確かに俺は日本号に好意を持っているが、それは仲間としてだ」
「それも多分にあるだろう。しかし、お前が日本号へ向ける視線はとてもそれだけとは思えなかった」
「……」
「その様子だとまだ告白はしていないようだな。あれだけ好意の眼差しを向けるくらいなら早いところ想いを伝えれば良いではないか」
「容易く言ってくれる」
「好いているのだろう?」
それはそうだが、だからといって告白は別だ。そう言い返そうと思ったが、日光は俺の言い分を聞き入れてくれるだろうか。
悶々としていると、体を洗い終わったらしい日光が浴槽へ浸かるため洗い場を離れていく。俺としては離れてくれるのはありがたいが、あんな話をしたというのに追及はしないのか。日光のことだから実際に告白するまで気にかけそうな気もしたが、流石にそこまではしないようで安堵する。
それにしても、まさかの日光に発破をかけられるとは。誰に言われても気まずいところだというのに、よりによってだ。
しかし、日光に告白したらどうだと持ち掛けられても俺は日本号とは現状維持でいく。好意に答えてもらえるならその方が良いとは思うが、このままの関係を続ける方が良いとも思っているのだ。
「それでへし切長谷部、最近日本号とはどうですか」
「失礼ですが主、その問いかけの意図をお聞きしても?」
まさか。まさか、この話題が主の口から出てくるとは。動揺が顔に出ないよう冷静を努めつつも、体からは汗が噴き出しそうだ。
「最近、風の噂程度ですが貴方と日本号が恋仲になったと聞きまして。以前から貴方が日本号を慕っているのは存じていたのもあり、気になってしまいました」
にこりと笑う主に半ば反射的に笑い返す。だが、汗が噴き出そうな錯覚は止まない。
恋仲になったという有らぬ噂は勿論、以前から俺が日本号を好いているのを知っていたとは……?誰が主へそんなことを伝えたんだ。
とはいえ、恋仲は兎も角として好意云々は日光にまで知られているのだ。偶然が重なってそのことが主まで伝わってもおかしくはないのかもしれない。だが、恋仲はどうなんだ。どうすればそこまで発展してしまうんだ。
「恐れながら訂正させてください。俺と日本号は恋仲ではありません」
「そうなのですか?」
「そうです。その、日本号を慕っているのは本当なのですが、俺の一方的なものなので、」
羞恥心から言葉尻が小さくなってしまう。だが、こればかりは事実のため伝えなければならない。歯切れ悪いながらも説明すると、主の笑顔に少し陰りが落ちたような気がした。
「せめて想いを伝えることはしないのですか?」
「はい」
「それで、良いのですか?」
じっと見つめてきた主はまるでこちらの意思を確かめるようで、堪らず視線を背けそうになる。それを誤魔化すようにゆっくりと瞬きすると「意地悪が過ぎました」と目を伏せた。
「慎重になる程、大事にしたい想いなのですね。ただ、審神者の私にまで恋仲の噂が届いていますから、いつまでも想いを秘するのは難しいでしょう」
「……これまでも何口かの男士から、今回のような話をされました」
気付かれたのが最初の博多だけだったらまだ良かったのかもしれない。しかし複数の男士から同じ話をされた挙句、主にまで知られているとなると日本号の耳に入るのも時間の問題だ。それに、この想いを自覚するまではそんな話はまったくなかったのだ。好意を隠して現状維持は難しいに違いない。
「告白して、この気持ちに見切りをつけるのも良いかもしれませんね」
「いえ、私はそんなつもりで言ったわけでは……」
気を遣ってくれているのか。いよいよ困り顔になった主に申し訳ない気持ちが募る。
主にまで届いた話が日本号に届かないわけがない。
「長谷部、ちょいと話があるんだが、」
俺へ声をかけてきた日本号の声と表情がやけに固く、ついにこの時がしてしまったと悟った。いや、むしろあれだけ指摘されてきた視線を受けている上に、ありもしない噂まで流れているのも考えていると遅いくらいなのかもしれない。
せめてこうして日本号から声をかけられる前にどうにかしたかったが、後悔先立たずというもの。素直に日本号に従おう。
他の連中がいると話しにくいと通されたのは日本号の自室だった。これまで何度も訪れた室内は仄かに酒の甘い香りがして体が緊張で強張りそうだ。日本号の自室といえば楽しく酒を酌み交わす場であったというのに、これから起こることを考えると憂鬱で仕方ない。
「あの、長谷部、」
「な、なんだ」
緊張を感じる日本号の声に、俺も釣られてどもってしまう。
「その。こう改まって話さなくても、お前さんには気付かれているとは思うんだが、」
いかにも続きを言い辛いとばかりに言葉を切る。それはそうか、昔は黒田、今はこの城での仲間と思っていた奴からただならぬ視線を向けられていたのだ。こいつは変に優しいところがあるから言葉を選んでいるのだろう。
「すまない、日本号」
「え、」
「俺もいつかは、こういうことになると考えていたんだ」
現状維持と言い続けていたが、想いを伝えてしまおうと思う瞬間があった。好きで好きで、いくら視線が云々と指摘されても止められなかったので、いっそのこと告白しても良いのではと。
しかし明らかに困惑している日本号を見て、やはり告白なんてするべきではないと気付いた。
「それなのにお前の気持ちを考えていなかった」
「考えていなかった?」
「ああ、いや、自分のことばかりで気に掛ける余裕がなかったというか、」
思えば俺は自分のことばかりで、好意の視線を向けられていた日本号が何を思っているかなんて考えたことがなかった。好意とは利己的な側面が強いものだが、我ながらとんでもない奴だ。これで少しでも告白を考えたというのか俺は……。
「その。お前は気まずいとは思うが、俺はこれからもお前とは変わらず本丸のいち仲間でいた「無理に決まってんだろ」
遮るような日本号の一言に、指先が一気に冷えてくる心地を覚える。
そうだよな。こちらから先に無意識ながら行動したのに、変わらぬ関係でいてほしいなんて虫が良すぎる。こうなることを予想して現状維持を努めていた筈なのに。
だが、虫が良すぎると思われようが、今までの関係がなくなってしまうのは避けたい。
「身勝手だとは思っている。こういう気持ちの切り替えはなかなか難しいともわかっている」
「そうだ。一度抱いた気持ちはそうそう変えられねえ」
鋭く睨みつけてきた日本号の目が赤く変色し始める。少なくとも戦闘以外では見ることのない変化に耐え切れず俯いてしまう。
「でも。でも、俺は今まで通りでいたい」
好いている想いを受け入れてほしいなんて言わない。これまでのように、戦場では信用して背中を預けて戦い、たまには酒を酌み交わしたり……いや、そこまでの贅沢はいわない。お前と一緒ならそれで良いんだ。
「先程も言ったが、今まで通りなんてもう無理なんだ」
「俺もお前に意識させないように努める」
お前と変わりなくいられるのであれば、あれだけ指摘されても控えられなかった視線もどうにかしよう。これくらいは我慢の内には入らない、立派にやってみせよう。
「……そんなにオレに好かれていることをなかったことにしたいのかよ」
「そう、なかったことにし、……?」
俺の好意はなかったことにして、これまで通りに……ではなく、オレに好かれている、とは? この場面でそんな言い間違えあるか?
その言い間違えは相当意味合いが変わってくるぞ。突然のことに思わず顔を上げると、日本号は険しい顔のまま俺の両二の腕を掴んだ。
「変わらない関係でいてほしいと頼まれて、はいそうですかって切り替えられるほどオレの想いは軽くはねえ。それがいくらお前さんの頼みだったとしても、こいつは譲れないんだ」
「あ、ああ。そうか、そうだよな」
先程のはやはり言い間違いだったらしい。それにしても改めて言われると流石に傷心の念を覚えてきそうだ。もしも二の腕を掴まれてなかったら胸元を擦っていたかもしれない。
「だからあれこれ言われても、オレはしぶとくあんたを好きでい続けるぜ」
「は、はあ」
「なんだ、諦めが悪くて呆れたか? そりゃあお前さんへの好意が駄々洩れだって皆から指摘されるくらいだ」
呆れているのかと誤解されたが俺は驚いている。こいつは一体何を言っているんだ? それとも俺の耳がおかしくなったのか?
「好意が駄々洩れって俺のことだろう」
「は?」
「熱視線とか見るのを控えろとか、日本号への好意がわかりやすいって」
「どういうことだ?」
「それは俺の台詞だ。お前から話があると皆のいない場所へ案内されたから、てっきり向けられる視線が嫌だとか、そういう話をされるのかと」
俺が抱く想いに気付いて、そういうものを向けられると困るとか、拒否されると思っていたんだ。
「視線の話もそうだが、オレへの好意ってなんだ?」
「言葉そのままの意味だが。俺が日本号のことが好きだって、向ける視線でまるわかりだと色んな奴から指摘された」
いざ自分でその事実を説明すると堪らなく恥ずかしい。単純に言葉で好意を伝えるよりとんでもないことを言っているのではないか。
「そんな話、知らないんだが」
「ならばどうして俺をこちらへ呼び出したんだ」
「そりゃあ勿論、オレの気持ちを伝えるためさ」
「おれの、気持ち」
「わかってんだろ? オレが長谷部、あんたのことが好きだってことだよ」
「? 俺が日本号のことを好きなんだぞ」
「いやいや。あんたじゃなくてオレが長谷部のことを好きで……、好きなんだが。その。あの、長谷部、」
赤かった虹彩に青みが差すのに反して顔が赤くなっていく。それに釣られてしまったのか、冷たかった指先がぼっと熱くなってくる。
俺の勘違いでなければ何やら行き違いが起こっているようだ。しかも、とても俺の都合の良いような話も聞こえているような気がする。
「あんた、オレの気持ちに気付いてなかったのか?」
「それはお前も、だろ。あれだけ皆が気付いていたというのに鈍すぎじゃないか」
「……あんたにゃあ言われたくなかったが、鈍いというのは否定できん」
すっかり赤くなった顔を綻ばせると日本号は大きく溜め息を吐く。明らかに安堵しているのがわかる様子に、こいつも表面に出さなかっただけで緊張していたのだと気付く。
「それにしてもあんたも皆に似たようなことを言われていたとはなあ。オレも長谷部を贔屓している、露骨だとよく言われたもんだ」
すると、第三者から見ればお互いがお互いを意識している状況だったのか? だが、そうなるとこれまで言われてきたことが、すとんと型にはまったように納得できてしまう。恋仲なんて流石に飛躍しすぎだと思ったが、噂の土台になるものはあったということか。
もしや、主も全て知っていたため、想いを伝える提案をしたのだろうか。それなら非常に申し訳ないことをしてしまった。
「羞恥心で消えそうだ」
「消えてくれるな。折角、あんたもオレが好きだってわかったんだぞ」
掴まれた二の腕を解放されたかと思えば、日本号の大きな腕が抱き締めてくる。その図体の大きさもあって視界の圧迫感は否めないが、かなり力を加減しているのか苦しさはまったく感じられなかった。それでも触れ合うところに感じる自分とは違う熱に、心理的な苦しさを覚えそうになる。
「改めて言う。オレは長谷部のことを好いている」
「……俺だって日本号のことが好きだ。その気持ちが自制できないくらいに」
どうしてお互い好いていたのに気付かなかったのか。それこそ、俺は指摘される程に日本号を見つめていたのだ。何か気付きはなかったのか。
「そんなに好きだって、どうしてオレは気付かなかったかね」
どこまでも俺達の意見が合うな。俺もわからないから、もしかしたらそういうものなのかもしれない。それに恋は盲目なんて言葉もあっただろう。普段気付くようなことも、好意を抱いた途端霞んでしまうことが多いのだろう。
兎に角、暫く俺と日本号は皆から視線や振る舞いを指摘されることになりそうだ。それだけは断言できそうな予感を覚えながら、俺は日本号を抱き締め返した。