徐倫が料理をしているのを眺めながら、出されていたコーヒーを飲んだ。
僕は時々承太郎の元奥さんと徐倫の住まいに寄ることがある。今日みたいに夕飯をごちそうになることもあるし、お茶だけ飲んで帰ることもある。それから、承太郎の友人として話し合いをすることもある。
徐倫は母親と住まうので家事を頼んでいるのかと思えば、基本的には手が空いているなら自炊するらしい。面倒だし、自分ひとり分の日なんかは面倒だと一度だけ漏らしていたが毎日欠かさず作る。それだけあって徐倫の料理は美味い。これだけ美味いなら面倒もないだろうにと思う。
「カレーとハンバーグ、別々にする?」
今日はハンバーグカレーだという。僕が伺う時は必ず子供が好みそうなものを作る。この間はオムライス、その前はナポリタンだった。いつかケチャップ味が好きだと言ったせいらしいけど極端だな。
少し考えて、一緒で良いと答えた。以前に徐倫のハンバーグを食べた事があるが出来合いのやつや僕が作るものより美味しい。肉がぱちぱちと焼ける音と、蛋白が焼ける甘い匂いに食欲がそそられる。
「そろそろ出来るけどすぐ食べる?」
「うん」
空いたカップは片付けられ、食卓に皿が並べられていく。これくらいなら手伝えるのだが、手を出そうとすると徐倫が止めに入るので黙って支度される様を眺める。趣味かは分からないが毎度出される食器は花柄が施されたファンシーなものだ。そして多くても三品ほどの食卓は10代の手料理と呼ぶには不似合いな程に小綺麗で、いつか行ったカフェを思い出す。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
一口食べて、以前と変わらず美味しいので口の端が上がる。それに徐倫が照れ臭そうに笑ったので笑うのをやめる。すると会話もないので静かになってしまった。
黙々と食べているうちに視線は向かいの徐倫に向かう。カレーとご飯を混ぜて食べるのか。僕は両親が混ぜないで食べるから自然と同じ食べ方になっていた。
不意に徐倫と同じ瞳の男を思い出す。承太郎は徐倫と同じ食べ方だろうか。少し考えては、彼と同じ食卓を囲む事はあまりない事に気付き、考えは打ち切った。
「ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
食べ終わると、すぐに食器を片付けた。後片付けくらいは僕にやらせてほしい。しかしもたもたしていると徐倫がさっさと洗ってしまう。作ってもらったのだから、片付けは僕がしなくては。止められる前に手を出してしまえば問題ない。
「余分に作ったから、持って帰らない? 今日は母さんもいないから食べる人いないのよね」
「僕んちも一人だし遠慮する」
「そう」
「他を当たればどうだい。例えばご近所さんや、」
承太郎辺り。そう続けようとしたが、そこで言葉を切った。徐倫と承太郎はそんな気軽に会う程、今は仲良くはない。たとえ親子であっても、寧ろそんな関係だからこそ、なかなか会わないのかもしれない。
「……明日、また来るからとっといて。美味しかったから、また食べたい」
家族なのだから一緒に住めとは言わないが、もっと会えば良いのに、とは少しだけ思う。しかし徐倫は極力承太郎がいそうなSPW財団や大学には足を向けず、承太郎もこの家へは行こうとしない。似ていないようでよく似たこの親子なら、気の合うことだろうに…それとも同族嫌悪するだろうか。
「お茶、おかわり要る?」
それは要するに、もう少し長居するかという意味だ。
「今日は帰るかな」
「そう。暗いし天気も悪いから道中、気をつけて」
「僕はいい歳した男だぞ」
「何かあったらあたしがあいつに怒られるのよ」
あいつとは、承太郎か。離婚してからいよいよ徐倫は承太郎を親としての名称で呼ばなくなってしまった。子として親の身勝手さに怒りを覚えた結果だろう。そう思う反面、僕は苦笑するしかない。そんな僕に徐倫が笑った。笑った顔が、いつもと少しだけ違うように見える。
「じゃあ、また」
「ええ、気が向いたらまた来てねカキョーイン」
今の承太郎が笑ったら、こんな顔なんだろうか。とぼんやり僕は思った。