「―…、―」
ポルナレフが馴染みのない言語を話している。日本語と拙い英語しか使えない僕はそれがフランス語であると辛うじてわかる程度で、内容はさっぱりわからない。
しかし向かいでポルナレフと話すアヴドゥルさんが笑顔になったので多分にいい話なのだろう。
時折、ポルナレフとアヴドゥルさんはこうしてフランス語で語らう場面がある。
もしかして僕たちには話せない内容なのかな。そう思って以前ポルナレフと同室になった際に探りを入れたが大した理由ではなかった。なんでも「たまには母国語で話したくなるから付き合ってもらっている」そうだ。それを聞いて、そういえば僕も英語を話す上で似たような心境があるなと感じて追求はしなかった。英語を使う上で特別不自由してないけど、たまに日本語が話したくなって承太郎と同室になった時の日本語のやりとりが楽しかったりするものだ。ポルナレフとアヴドゥルさんの会話もそんな感じなんだろうか。
気のせいか普段使う英語以上にポルナレフは饒舌に話している気がする。内容は相変わらずわからないけれど、あんなに舌を巻いてよく話せるものだ。そんなポルナレフに対してアヴドゥルさんはぽつぽつと短く返す程度だ。ポルナレフの聞き役に徹しているのだろう。
ポルナレフがけらけら笑うとアヴドゥルさんもにやりと笑い、また言葉をひとつふたつ呟く。二人の会話の内容はやっぱりわからないけれど、間に流れる雰囲気は穏やかで僕は少しばかり羨ましくなる。
話の内容が知りたいというわけじゃあない。こうして穏やかな雰囲気を共有できるのが羨ましいのだ。
僕たちは命をかけた旅する仲間だし、それなりに仲も良いと思っている。それでも長い付き合いがないことや出身国が違うことでどうしても壁のような、一種の隔たりを感じる瞬間というものがあるのだ。
それはこれから過ごす時間でどうにでもなると知っているけど、こうして旅の仲間である二人が実行してしまってると羨ましいことには変わりないのだ。
「―!…―っ――!」
不意にポルナレフが大声を上げるので見てみるとそこには、口を大きく開けて笑うアヴドゥルさんと顔を真っ赤にして騒ぐポルナレフがいた。ポルナレフは大声で何か言っているが怒っているようには見えず、どこか照れているようだった。その証拠にアヴドゥルさんは楽しげに笑い続けて何か話している。
やっぱり、ちょっと羨ましいな。
無遠慮に笑いながら荒げながら。僕にはまだまだ無縁のやりとりだ。僕も遠慮してないし皆も同様だろうに、あの二人のような雰囲気で誰かと話すのが僕は想像できなくて、ほんの少しだけ日本語が恋しく思えてしまった。