チェリーバイキングで祝福を(+徐倫) ※生存院

「繁盛してないがなかなかうまいレストランがあってな、そこで夕飯にしないか」
 そんな珍しい承太郎からの誘いに、断る理由が見当たらない僕はひとつ返事でOKした。
そうして互いの予定を合わせ当日を迎えてレストランへ訪れると、こちらへ手を挙げている承太郎と、その隣にはどこかで会ったように記憶する年若い女性が出迎えてくれた。

「父さんのチョイスにしてはなかなか美味しかったわ」
「どういうことだ」
「あたしと父さんの好み、合わないのよ。それが合うっていうんだからいいことじゃあない」
 女性は10年以上前に一度会ったきり、承太郎の話でしか聞いたことのなかった娘の徐倫だった。
 幼い頃は人形のようで美人で愛らしかったから奥さん似かと思っていたが、今年で14歳になる彼女は承太郎の血を濃く受け継ぐような精悍さがあった。それでも承太郎とは明らかに違う女性ならではの華やかさもあって、そこは幼い頃に感じた奥さんの面影を覚えた。
「花京院はどうする」
「え?」
「追加注文するんだが、何か頼むか」
つい、考え事に専念してしまった。
「ええと、じゃあコーヒーを一杯」
「あたしはパンナコッタ」
「年頃が食べ過ぎると肥えるぞ」
「年頃であると同時にあたしは成長期なの!」
 今回の誘いの電話の際、承太郎は奥さんと離婚したことを報告してくれた。これまで不仲なんて話を彼の口から一切聞いたことがなかっただけに僕は驚いた。加えて娘の徐倫を引き取るということになったと聞いて、ついに僕は声を荒げた。
「君ってやつは……これからどうするつもりだ!」
 祖父は世界的に活躍した富豪、承太郎本人も博士であるだけに経済面は何不自由しないだろう。しかし徐倫はまだ子供といってもいい年齢だ、これから何かと大変なのに離婚だなんて。
「せめて徐倫ちゃんがもう少し大きくなってからでも良かっただろ」
 お金に不自由しなくても男親だけでは苦労はより多い。子供を育てるのは大変なんだぞ、そんなの人の親である君の方が実感してるだろうに。
「彼女の将来は私が責任を持つ」
 もっと言ってやりたかった。しかし、迷いなくそう言い放たれたらどうする。
 承太郎は有言実行の男だ。きっと、徐倫のためならば何でもする。そう断言してもいいくらい、意思の強い男だ。だから僕が何を言っても、離婚した結果として徐倫について苦労を強いられても後悔はしないだろう。
 でも、どうして離婚に至るまで、僕に何も話してくれなかったんだい?
僕は君のことずっと、一番の親友だと思っていたのに。僕はそんなに頼りない、かな?そう思ったが、何も言えず。
 夕飯ついでに娘とも会ってくれないか、と言われたわけだけど逆じゃあないのか。そんなところは相変わらず、なのか。
「花京院」
 承太郎に名前を呼ばれてはっとする。目の前にはいつの間にか湯気を燻らせたコーヒー。
「ぼんやりして……具合でも悪いか」
「ああいや、ちょっと食べ過ぎて腹が苦しいだけかな」
「暫く食事を交えない内に食が細くなったな。徐倫の食欲を分けてやりたい」
「だから!成長期なんだって!」
「それが過ぎると横ばかり成長するぞ」
 そんな父娘のやり取りに、気付かれない程度に小さく溜め息をついた。食が細くなったわけではない。緊張に食欲が湧かなかっただけだ。
「じゃあパンナコッタ、半分はカキョーインに食べてもらえばいいじゃん。カキョーイン、パンナコッタ好き?」
 突然徐倫から話を振られて、僕は気まずさに口元を隠す。
「あ、まあ……嫌いじゃあないかな」
「じゃあ半分こ! これであたしの食欲もカキョーインと半分こ。どう?」
「とんだ屁理屈だな」
 憎まれ口を叩こうとも互いに怒る気配はない。寧ろ父娘ならではの軽口に思えて、僕は閉口する。僕の心配など杞憂のようで、この二人はなかなかに良い関係のようだ。
別に僕が口出す必要は、ない。
と思うのに、胸がもやもやして、どうにもすっきりしない。
「甘いの大好きだもの、半分こしても食べたくなるのは仕方ないじゃあない。だから今度はケーキバイキング連れてってよ」
「やれやれ」
「ケープホテルのね! あそこのイタリアン美味しいんだって!」「ケーキバイキングだけじゃあないのか」
「しょっぱいのも食べたいの!」
「全く……なら今度、花京院も一緒に行かないとな。そうしたら食欲が半分になるんだろ」
 不意に、承太郎から僕の名前を出されて。
 そうして胸のもやもやの正体がわかったような気がした。
「決まりね! カキョーイン、来月にでも行きましょ」
 徐倫が僕の手をぎゅっと掴んで、そして頬を赤らめて微笑んできた。その姿に釣られるよう、隣に座る承太郎も微笑する。

 ああ、僕はもしかして、単純に寂しかったのか。
 僕を頼らなかった承太郎が、知らないところで変わることを、僕は寂しく、思ったんだ。

 そして、何故僕は寂しく感じてしまったのか。わかってしまった。
「カキョーインは何が好き? 好きなものがあるなら今度そっちも行きましょう!」
「花京院はチェリー一択だ」
「まさかぁ。一番好きなものはなに?」
「僕は、」
 僕はね、多分。
 君のお父さんが一番、好きなんだ。

 あたしとカキョーインは実に11年振りに会うらしい。しかしあたしはカキョーインという人物をよく知っていた。
「花京院は誰よりも頼りになる男でな、」
 そう父さんが話し出せば、軽く10分はカキョーインについての話が続く。内容は父さんの高校生時のことから現代に至るまで年代は幅広いが、カキョーインについて。どうやら「自慢の親友」というものらしい。
 そのため11年もの会うことがなかったカキョーインをあたしはすんなりと呼べたのかもしれないし、父さんとカキョーインをじっくり観察するほどの余裕もあったのかもしれない。そうして、そんなカキョーインとの夕食を終えて解散し、今は家路に向かう車内。そこは普段は口数の少ない父さんの独壇場になっていた。
「この間のスタンド使いの調査で花京院は、」
 父さんが饒舌になる話題は海洋学についてか、カキョーインについてか、その二択しかないのをあたしは知っている。そして今父さんの口を饒舌にしているのは先ほどまで夕食を共にしていたカキョーインの話題だった。
 今回は最新の話題のようであたしの知らない話であるだけ良かったけど……久々にカキョーインに会ったというから初めて会った時の話をされるのかと思っていた。
 全く、カキョーインとの出会いの話を何度されたことか……母さんとの馴れ初め話よりされていると断言してもいいくらいには多い。神社の階段で怪我をしていたところをカキョーインが声をかけてくれて、ハンカチをもらったんでしょ?カキョーインと父さんの出会いについて答えなさい、なんてテストがあれば満点を取れる自信があるくらいには覚えてしまった。
「父さん」
「なんだ」
「カキョーインとは親友なのよね」
「ああ」
「あたしは父さんにいいひとがいるなら再婚してもいいから」
「なんだ急に」
「別に。カキョーインとは初めて会ったに等しいけど、いい人ね」
「だろう?」

 父さん。
 ヒトデの分析もいいけど、自己分析もしたらどうかしら?