拝啓、本丸で初めての年の瀬を迎える日本号へ
熱燗が恋しい頃だろうか。あんたなら酔うこともないが、口煩い奴がいるから飲み過ぎにだけは気をつけてほしい。
さて、今は演習場を周回している時期か。それとも初の連隊戦で四苦八苦しているだろうか。どちらにしても師馳すように忙しくしているに違いない。毎日休みなく戦うのは辛く思う瞬間もあるが、それ以上に人の身を得て本身を振い戦果を出すのが楽しくて仕方ない時期だろう。
刀剣男士としての生活はあんたが思う通りに良いものだ。そしてこれからもそれを実感する時が何度もある。
しかし、手放しで刀剣男士としての日々を謳歌はできない。そもそも刀剣男士として存在するということは、歴史修正主義者との戦いが続いているということ。当然ながらこちらの都合の良いように物事は進みはしないし、やきもきする時も多い。あくまでも戦いの中に身を置いていることを忘れずに、油断していつかのように穂先に傷をつけないように。
飲み過ぎるなとは始めに書いたが、祝杯の一杯だけは欠かすことなく続けてほしい。帰城後の楽しみは少なくとも活力となる。そして買うならそこそこ値がするものをおすすめする。安い酒はどうしても悪酔いしやすい。まあ、金をかければ良いというものではないし、安い酒でも良いものはある。だが、安い分はずれも多い。はずれの中からあたりを見つけ出す冒険も面白いが、祝いのものは確実に美味いものであるのが良い。
さて、ここからが本題といっても良いかもしれない。それを念頭に置いて読んでほしい。
刀剣男士としての日々を謳歌できない理由は歴史修正主義者だけではない。もしかしたら、そう書くだけで心当たりがもう浮かんでいるだろう。そうだ、あの口煩い奴。かつて『圧し切御刀』と呼び、羨望すら抱いたあのへし切長谷部だ。
あいつはきっと高圧的な態度ばかり取るはずだ。しかしそれだけならばあんたにとっては些細な事だろう。もしかしたら多少高圧な方が頼りがいがあるくらいは思ったかもしれない。
だが、その高圧的な態度で隠されていたものを知ってから、あんたは荒れに荒れることになる。正三位が『御刀さま』と呼ぶくらいの、へし切長谷部の知りたくなかった事実を知り、本丸でも、合戦場でも荒れる。飯も食わずに酒ばかり飲んで飲みまくって、柄にもなく酔い潰れてしまうだろう。気持ちはわかるが、荒れた時の自棄酒ほど悪酔いするものはないから程々にしてほしい。
そんな荒れた気持ちのまま、あんたはへし切長谷部に「折りたくなる」と言ってしまう。
そう言いたくなる気持ちもわかる。やめろとは言わないし、言ったところでいずれは言ったに違いない。
ただ、その時のへし切長谷部の言葉。どうか忘れないでほしい。あんたのことだから忘れることなんてできないだろうが、忘れないでほしい。あんたにとって、多分にへし切長谷部にとっても大事な言葉のはずだ。何年経っても大事な言葉になると断言しよう。あんたの宝物にもなるし、重い足枷にもなる、ある意味厄介なものになる。だからどうか忘れないで。
へし切長谷部に折りたくなると言ったところで、変わらず刀剣男士の一口として共に生活していくことになる。あんたもへし切長谷部も戦力として顕現されたのだ、気まずいから距離を置かせてくださいなんざ甘いことは許されない。
酒が不味くなる程不満を抱くだろう。だが、あまり気を揉むな。決して悪くない毎日を送ることになる。
仲間もたくさんできる。昔馴染みや名前だけは知っていた奴、活躍した時代が違うためにまったく知らない奴まで。どいつもこいつもあんたを正三位として扱うことはないが良い奴ばかりだ。
それに、やはり刀剣男士としての役目はやりがいがある。物資を運ぶ些細な任務もあるが、なかには歴史を大きく変えかねない任務もあり、少なくとも刀剣男士として飽きを感じる瞬間はないだろう。まだまだこれから色んなことがある、どうか覚悟してほしい。
修行にも出ることになる。更なる高みを目指して。自分はもう極まっていると思うかもしれないが、修行は決して無駄にはならない。確かな成長があるし、とある貴重な体験もする。とある体験は修行に出てこそのものだったので、いつかは修行を検討してほしい。
修行を経て刀剣男士として実力を上げたあんたは、同じように修行を積んだへし切長谷部と共に合戦場で活躍することになる。そして、機動力の高さから博多と共に『機動の黒田』と呼ばれることになる。黒田の名を上げる活躍は誇らしくて堪らないぞ。そしてあんたと揃って『機動の黒田』と呼ばれたへし切長谷部はそれを否定することなく、時には主へ誇らしげに見せつけることもあるだろう。あんたは驚くかもしれないが、そう遠くない未来、そんなへし切長谷部が見られるだろう。
さて、もっと驚くことを書こうか。
あんたは恋をすることになる。人ではない、あくまでも肉体を得た刀剣男士だが、恋をする。話の流れで察してほしいが、恋する相手は『へし切長谷部』だ。
愛想があるわけでもなく、酒を飲んでいれば口煩くあれこれ言ってくるへし切長谷部。しかも折りたくなる程の存在だ。恋をするにはどうかと思える相手にあんたは動揺するだろう。いや、動揺するに違いないといった方が良いかもしれない。初めて恋を自覚した相手がへし切長谷部であることに悩みに悩むだろう。そして、この気持ちは一過性のものだと考えて想いが冷めるのを待ってみたり、悪いところを見つければ冷静になるだろうと粗探ししたりもするかもしれない。
だが残念かな。恋する気持ちは冷めない上に、恋する頃にはあいつの悪いところをこれでもかというくらい見てきたはずだ。他にも何かするだろうがすべてが無駄になる。下手しない内にやめておけ。粗探しに至っては悪いところではなく、新たに好きなところを見つけて頭を抱えることになる。
ただ、あいつに恋して、不毛だと思うことはないと断言しよう。それはへし切長谷部が想いに応えてくれる、という都合の良い展開があるから……ではないのだが、どういうことなのかは日光に会う頃にはわかるだろう。日光もあいつに劣らずなかなか厄介だがどうにも可笑しい奴だ。気乗りしないだろうが、再会する時には盃の一杯でも交わしてほしい。あんたがどう行動しようとも、へし切長谷部が関わることになると世話になることが増えるだろうからな。
日光に限らず、へし切長谷部が関わるとどうにも周りを巻き込み世話になる事態は続くだろう。その筆頭は博多、厚、小夜に、あとは……これ以上書いてしまうとこれからの出会いの楽しみを削ぐかもしれないので割愛する。
先述したように、へし切長谷部に恋することは決して不毛なことではない。決して楽な道ではないが、手助けしてくれる者もいる。だからもし恋を自覚したら、しぶとくへし切長谷部を愛してほしい。