独占欲が強く、それに比例するよう嫉妬深い自覚はあった。
「あんたの左手の薬指、僕のなんだから誰にもやるなよ」
それはまあ、婚約などまだしてないカラ松に対して、こんなことを言って釘指す程度。たまに嫉妬心を抑制出来ず手が出ることもあったけど、犬も食わぬなんとやらの範囲だと、そう自己分析していた。
ただ、残念ながら僕は自身を客観的に見られるほどできた人間ではなく、そんな奴が自己分析なんて大層なことはできないのだ。
カラ松を■めてしまった。
珍しく楽しげに女子と話していたあいつが悪いのだ。あんな姿見たら、僕は気持ちを抑えられず何より先に手が出てしまう。
▲が滴るカラ松の丸い輪郭はいつものようにとても柔らかそうなのに、僕の背中に罪悪感が容赦なく突き刺さる。刺さるものがあるほど利口であったらしいが、自己分析と予測因子を特定できるほどの頭脳を持ち合わせてないことも判明した。
なんとも回りくどい後悔である。
しかしながら後悔先に立たず、■した者は●んでしまうもので、僕は動かなくなったカラ松に飛び付いた。〓が溢れたが、これはどのような心境からくるものなのか。悲しみなのか後悔なのか。またはそのどちらもか。
若しくは違うものか。わからないまま、ただただはらはらとカラ松に〓を降らせていると、柔らかな彼の形にヒビが入った。ヒビは音を立てて一気に広がり、丸い輪郭がばらばらと崩れては光を反射する。確かに、カラ松の肌は僕の肌と限りなく同じ色をしていたというのに、崩れてゆくカラ松はひかりを集めたように青く煌いてゆく。とても彼らしい、明るい青に見惚れていると丸く縁取る▲はなくなっており、気がつけばカラ松は青い破片の山となっていた。手に取ってみるとそれは気味悪く生温くて、▼ではないのだとよくわかった。
そうか、もうカラ松は▼ではないのか。それは果たしてどういったことなのか。●がカラ松に、僕にもたらしたものがこれならば、どういうことなのだろう。
手に取った青はカラ松を連想させるが、これをカラ松とわかる者はいるだろうか。きっと僕以外いない筈だ、いてたまるか。つまり、●が僕にもたらしたものはこれであり、つまりはカラ松の独占を可能としたのだ。こいつ、僕にひどいことされたっていうのに◇かなにかか? こんな形で願望叶えるなんて。
こうして僕は▼ではないカラ松を段ボールに入れて、誰の目にも触れないよう屋根裏の僅かなスペースへ彼を隠した。しかしできた頭を持ち合わせてない僕は、カラ松を独占できるようになった喜びで先の見通しを怠ってしまったのだ。
ある日、家族の隙を見て屋根裏のカラ松に会いに行くと、心なしか記憶するより小さくなっているような気がした。その時はあくまで僕の気のせいで済ませてしまったが、公園で逆ナンを求めた奴が人目のない屋根裏で大人しくしているわけがないのだ。日に日にカラ松は小さくなってゆき、最終的に掌に収まるほどになった時には流石に〓した。▼であった時に限らず、●んでもなお僕のものにならないのだと言われたようだった。だが、幸いにもそれ以上小さくなることはなく、僕の想いは許されたのだとまた〓した。
僕はカラ松を屋根裏から自分の私物入れに移動した。きっと屋根裏にいるより、ここにいた方がましだろうから。これ以上小さくなって消えたらどうすればいいかわかんないし。時折他の松の目に留まってあれこれ聞かれたり、カラ松をじろじろ見られるけど彼がいなくなるよりましである。
暫くそんな生活を送っていたが、やっぱり他の松にカラ松を見られたくなくて僕は家を出てひとり暮らしを始めた。仕事は非正規で工場務め、それを自立を目指していると勘違いした両親は僕を応援しては時折米や保存食を送ってくれた。そのため仕事はそれなりに忙しかったけど、衣食住に困るほど貧乏するでもなく、自分の都合で始めたひとり暮らしはなかなか良いものだった。なによりすぐ見える場所にカラ松を置いて、ひとりきりで見つめることができるのは至福であった。
平穏な日々に余裕を覚えた僕は趣味で小説を書き始めた。これがなかなか面白くて、カラ松を眺めて書き上げた長編は我ながら良い出来になった。順風満帆だと何もかも好調になるのか、あまりに満足な出来に調子に乗ってSNSへ上げた長編小説は世間で評価を受けて書籍化を果たした。まさかそんな□のようなことが起こるのか?そんな疑念を抱いたが、カラ松が▼ではなくなって存在するのだからこのようなこともあるのかもしれない。しかしカラ松は◇だからこそ■されて●しても今で有り続けているのだから僕が評価されたのは質の悪い□に違いない。
そんな僕の考えを無視するように、世に出す僕の×は高い評価を受け続けた。質が悪くても□は□なのか、続く評価に終わりが見えない。僕は愛したカラ松を■したクズニートだったのに、誰もそんなこと知らないくせに。もしかしたら兄弟は僕に言わないだけで知ってるかな。身内に関しての察しは良い兄弟たち、カラ松が僕のせいで◎なくなってしまったのくらいわかっているかも。だからみんな▼ではないカラ松を見つめても僕にカラ松の行方を聞かなかったのかな。
それは兄弟なりの優しさなのか、そうは思えない僕は、僕とカラ松の話をSSとして公表した。僕の×が評価されたこの□で、この出来事はどのように評価されるのか。
出版社から山もオチも意味もないと言われ、世間からは特に大きな反応はなかった。
なる程、この□では僕の都合の宜しくないことほど大きく、都合の良いものほど小さく評価されるのか。
果たして、僕の視線の先にある▼ではないカラ松は意味はないのか?きっとカラ松が◎なければ今の僕はないというのに。□だけあって、□なのに矛盾している。それともこれまでの僕に意味がなかったのだろうか。
いつの間にか僕は親からの仕送りに頼らなくても生活できるようになっていた。そしてカラ松を独占しているときた。とても望ましいかたちだというのに。
これまでの僕の意味を評価されずとも僕の×は引き続き高評価され、ついには工場勤めを辞めて趣味が仕事となった。極力人と会いたくなかった僕としては望んだ展開であり、何が□であるのかいよいよわからなくなってきた。
そんな、地に足がつかないような日々を送っていたある日、自宅のインターフォンが鳴った。誰なのか、電話はあっても来客なんてない僕の家を訪ねるなんて。興味が先立ってドアスコープを覗かず玄関扉を開ければ、そこにはとても懐かしい人物が立っていた。いや、懐かしいというのは語弊があって、毎日僕と会っているその人物は、▼として僕の前に現れた。
「久しいな一松、家を出たというから探したじゃないか」
ずっと一緒にいたのに懐かしいだなんて、口がなくて声を久しく聴いてなかったからだろうか。目の前の人物はカラ松であり、凛々しい眉の下の眼差しは優しかった。
「カラ松なの?」
「他の松に見えるか?」
「似てるけど、カラ松にしか見えない」
思わず目の前のカラ松に抱きつけば、腕に収まらない彼の大きさに、今まで一緒に過ごしてきた小さなカラ松がただの青い塊となる。そうだ、僕のカラ松はこんな大きさで、こんな奴だった。
「会いたかった」
「お前が■しておきながらよく言うな」
笑いながら抱き締め返してくれるカラ松の腕は温かくて、彼は▼であるのだと認識する。
「おっと……そうだ一松、いい加減俺の薬指をかえしてくれないか」
「薬指?」
「俺の左手の薬指はお前のものだというからそれだけは置いてきたんだが、これが無いとなかなか不便でな」
置いてきた。ということは多分残ったもの。思い当たった青い塊を差し出せば、薬指の欠けたカラ松の左手がそれを受け取った。そして塊は欠けた場所にかちりとはまると、継ぎ目に明るい青を残して薬指となった。そうして明るい青は濃くなり、瑠璃色の指輪となった。
「お前は俺を独占したかったし、この薬指もお前のものにしたかったんだろう?そして今のお前なら俺ひとりくらい養えるんじゃないか」
「まあ、あんたがニートでも問題ない程度には」
「ならばとてもイーブンな関係とは思えないか?」
□というものはそこまでこちらの思う通りにいかないらしい。□の続きだというのに僕の都合の良い展開となっている。
「●ぬようなことはもう勘弁だ、自制心を持てよ」
「うん、もし次■したら僕も●ぬから大丈夫」
「そいつは大丈夫なのか?」
問.記号に当てはまる単語を入れ、回りくどいハッピーエンドを完結させよ