やまのうえのゆうえんち(仗露)

「ベニーランド行こう」

 そう一言、東方仗助が言うものだから僕は即座に嫌だと叫んだ。原稿中の外出は好きじゃないし、遊園地など興味もない。第一、東方仗助が好きじゃない。断られることを前提にはしていなかったらしく、えー、と間の抜けた声を上げた。
「大丈夫っスよ、平日だからすいてるし、ジェットコースターだって待たずに乗れる、きっと楽しいっスから」
「勝手に行けばいいだろ、お前一人で」
「露伴、観覧車好き?テレビで見るよりでかいっスよ。見たくない?」
「見たくない。全然」
「ふうん……な、ベニーランド行ったことある?」
「……ない」
 幼い頃から両親に連れられて様々な観光地に行った。元から両親は旅行好きなのか、一度には思い出せないくらい出掛けた。その影響か取材のために出掛けるのは全く苦には感じなかった。
 両親と出掛けた先は、テレビや本で特集を組まれる程の有名どころばかり。地元の遊園地は両親の興味の対象にはならなかっただろう。
「行こうよ、ベニーランド。チケットくらいおごりますよ」
「嫌だ」
「どうして?今から行けば夜には戻れるし、帰りに康一が通ってる塾寄って帰ろう。迎えに行ったら喜んでくれるっスよ」
「喜ぶ?」
「ね、行こう」
 手を握られる。皮膚がぞくぞく粟立って、声にならない悲鳴を上げた。東方仗助はそれに気づかず。否、気づいているのかもしれない。構わず僕の手を握る力が強くなった。思った以上にごつごつして男らしい手だ。まだ16歳のくせに。
 まるで感触を確かめるように強弱をつけて握りながら、東方仗助は残念だなあとため息をついた。
「じゃあさ、ベニーランドは今度にして、康一を迎えに行くのはだめっスか?」
「今日は、」
「今日じゃなければいいの?」
「い、や」
「迎えに行って、帰りに飯食べて帰りましょ。あんまり外に出ないとカビ生えるっスよ」
「は?」
「肺とかかびる」
「うそだろ」
「うん」
「去ね」
「酷いなあ」
 きり、と握る力がきつくなる。少し痛い気もする。
 両親は僕が幼い頃から様々なものを見せてくれた。まるで杜王の外の世界を確かめさせるように。
 東方仗助は、何を見せたいのだろう。
 少し紫を帯びたリーゼントが日光を透かして青みを増す。東方仗助が見せるものはこれに似ている光景だ。東方仗助からは静かで、それでいて主張あるひかりの色がする。ひかりか、飴や刃物のような、その全部を固めたものか。とにかく、正しくも刺激あるもののかたちで、だから僕は東方仗助を好きじゃない。
「ね、康一迎えに行こ。スクーターそこに置いてるから、露伴は後ろ乗って」
 山頂にある遊園地までの距離を思い出し、そこまでの道のりを連想した。
「嘘だ」
「嘘じゃないっスよ。こっちは、本当」
 こっちは、か。はめられた。

「知ってる」
「そう。流石、露伴」