煙草は二十歳になってから ※年齢操作あり

「おにいさん、未成年でしょ?たばこはよくないよ」

 学校から最寄の喫煙所で一服してから下校するのが日課である俺は、今日も同様にそこへ訪れる。自宅でも吸えるには吸えるが帰宅直後となると母親がなにかとうるさいのでこうして喫煙所に行く。そこで新聞を読みながら数本吸って出てきた俺に一人の小僧が声をかけてきた。
 赤毛の頭髪は前髪が一房だけ長い。顔つきはぱっと見少女にも見えたが、女にはない精悍さが滲んだ表情に男の性を感じる。一度見たらそう忘れるような容姿ではないが、知らない小僧だ。
 俺が知らないのに小僧が俺について知るわけがない。無視して横切ろうとしたら尻ポケットを鷲掴みされた。かわいい顔して意地悪が過ぎるタイプかと、その手を掴み返そうとすると素早くポケットに何かを詰められて、小僧の手が離れていった。
「?」
 尻に違和感。何をポケットに詰めやがったんだ。少し俺から距離を取る小僧を睨みながらポケットを探れば、がさりと固いものが指先を掠める。それを掴み出して確認すれば、さくらんぼが描かれた飴玉の小袋。
「たばこやめるにはあめがいいってききました」
「ガキが余計な世話を焼くんじゃあねえ」
「ガキに世話をやかれるほうがわるいんだよおにいさん」
 言いながら小僧は俺に踵を返すと大通りへ駆けて行く。その足の素早いこと、こちらが追いかけるか躊躇している内にその姿は見えなくなってしまった。
「なんなんだ」
 その時は幼子によくある気紛れかと、思っていた。
 しかし、それを皮切りに俺は喫煙所周辺であの小僧と遭遇することが多くなった。多い時には週に3度くらい顔を会わせたが、話す内容は一緒。
「おにいさんたばこやめなよ。からだにわるいよ」
「るせぇ」
 こんなやり取りを続けては、小僧は最後に必ず俺にチェリー味の飴玉をくれる。
 俺が受け取らないと、強引に尻や学ランのポケットに入れてくるので今は素直に受け取っている。相変わらず俺は喫煙所に出向いて煙草を吸い、小僧も変わらず俺に飴玉を寄越す。
 出会えば必ずもらえる飴玉は日を増す毎に溜まり、そろそろ小僧と出会って三月経とうとする頃にはおふくろが飴玉専用の入れ物を用意する始末だった。
「煙草一本吸う代わりにいっこ食べればイイじゃあないの承太郎」
「甘いのは好かん」
「……じゃあ、男の子には悪いけど捨ててしまう?」
「もったいねぇ」
「じゃあ食べたらどうかしら?」
 それではあの小僧に従ってるようで面白くない。
「こんなに一杯、すごい量よ。 承太郎が煙草控えないともっと増えてしまうわ」
 容器に入った飴玉はきっと、毎日ひとつずつ食べても一月では消化できないほどになっている。これは流石に貰いすぎだと、貰ってきた身ながら思う。 そして俺が減煙、または禁煙する意向を小僧に知らせない限り増え続けるだろう。
 次の日、習慣のように喫煙所を利用して出てくれば、あのチェリー小僧が俺を見上げてきた。
「きょうもきたんだ、おにいさん」
「家で吸い過ぎるとおふくろがうるせえ」
「じゃあやめたらいいのに」
「それはできねえな」
 この流れでは今日もまた、飴玉を渡される。突き出してきた小僧の拳は何かを握っているとわかり、俺はそれを小僧の胸元に押し返した。
「禁煙はまだできねえが、飴玉のお陰で最近は少し吸う量が減った」
「へった?」
「ああ」
 禁煙に向けて煙草を減らしてるんだ。だから小僧が気にかけなくたっていい。
 暗にそんなことを込めたのだが、小僧は今まで見たことないくらいに破顔するとポケットから何かを取り出して俺の手に握らせた。
「おにいさんいいこだから、おともだちのあめあげる!」
「お友達?」
「うん。おともだちでとくべつ!」
 お友達とは? 今までチェリーの飴玉を貰ってもそのようなことを言われたことはなかった。なんて疑問を抱きながら貰った飴玉を見ると、それはメロン味の飴玉だった。お友達、の意味はわからないが今までずっとチェリー味の飴玉ばかりだったので特別を感じる緑の包装だ。
「おにいさん、やっぱりいいこなんだね」
「いいこってなんだ」
「だって、ぼくからもらったあめ食べてたばこへったんでしょ?」
 まあ、要はそう伝えたが17歳の俺にいいこ、はどうなんだ小僧。そう言い続けようとしたが、小僧があまりに嬉しそうに笑いながらいいこと繰り返すので、 俺はメロン味の飴玉を片手に黙ってしまうばかりだった。

 そんな小僧を見られるなら禁煙に励むのも悪くないと思いつつ、禁煙が達成すればあの小僧と会うこともなくなってしまうのではと思い悩むのは一月後の話。